平成19年度は、歯根膜由来細胞の産生する骨芽細胞分化誘導因子の発現に対するTRAP存在下での機械的外力の作用を検索するための実験準備を進めてきた。骨系細胞の性格を有する歯根膜由来細胞に対するTRAPの作用は不明であり、さらに機械的外力を伴う影響を検索した報告は皆無である。TRAPは、大腸菌による発現系を用いたリコンビナントTRAPおよびNOVUS社製ACP5 Recombinant Proteinを今回の実験系に用いた。予備実験として、I型collagen(COL1)にて表面処理したストレックス社製ストレッチチャンバー上に培養骨芽細胞(MC3T3E1)を播種し、左右伸展タイプのチャンバーを有する細胞伸展装置(STB-140)により機械的伸展力を負荷した。細胞の伸展度および負荷時間の検討を行い、それぞれ20%と1分間40往復の連続刺激とした。チャンバー上で72時間プレコンフルエントまで培養後、TRAPの添加と同時に16時間の機械的伸展力を負荷した。細胞伸展後、mRNAを抽出しReal-time RT-PCRを行った。その結果、MC3T3E1 cellsにおいてTRAP添加によりOsterixおよびCBFA1のmRNAレベルの抑制を認め、伸展力の負荷はさらにその抑制効果を増強した。一方、破骨細胞の分化誘導、活性化に関連するRANKLおよびOPGのmRNA発現に対する影響を検索した結果、OPGではTRAPおよび機械的伸展力で著明な変化はみられなかった。これに対しRANKLはTRAP単独添加ではmRNA発現の上昇を示したが、機械的伸展力の負荷により発現レベルの抑制が認められた。TRAPおよび機械的伸展力が骨芽細胞の分化誘導を抑制するメカニズムについては不明であるが、後者の結果は、歯牙移動時に圧迫側の歯槽骨骨芽細胞が吸収系細胞の分化誘導に抑制的に作用する可能性を示唆するものである。
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