平成16年度までに確立した、歯肉縁下プラーク試料からの染色体DNAの分離精製、ならびに16S rRNA遺伝子断片のクローニングと配列解析に関する技術基盤を用い、4人の慢性歯周炎患者の歯肉縁下プラークから抽出精製した染色体DNAを調製し、歯肉縁下ポケット細菌叢16S rRNA遺伝子PCRクローンライブラリを構築し、従来の3〜4倍の数(480)のクローンの配列解析を行って、歯肉縁下ポケット細菌叢の構成菌種の存在密度を高い精度で推定することを試みた。歯肉縁下ポケット細菌叢の種のrichnessの推定値は、100〜200 phylotypesであった。しかも、4試料の細菌叢は、共通に存在する優勢な17 phylotypeを除くと、分布に個体差のある178 phylotypeから構成され、さらに同一phylotypeに包含されるが配列に変異を有する配列の分布に大きなpatchnessを認めた。このことから、互いに競合するいくつかの菌種・菌株の共生系が慢性歯周炎の病巣形成に関わると考察された。さらに、歯肉縁下プラーク細菌叢の多くの配列は、すでに報告されている食道遠位端または嚢胞線維腫症患者の気管の細菌叢ライブラリに含まれることが判明した。これらの結果は、慢性歯周炎病巣におけるバイオフィルム細菌叢の形成機序や病原性の発現、あるいは細菌叢検査で用いられるプローブの分子系統学的な所要性質について示唆を与えるものであり、全身の健康に対して影響をおよぼす可能性をもつ歯肉縁下プラーク細菌をさらに限定しうる可能性を示唆するものであった。
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