昨年に引き続き、自己免疫疾患モデルマウスMRL/1prマウス(5ヵ月齢)を用いて、シェーグレン症候群の発症機構における唾液腺細胞の抗原提示細胞としての役割について免疫組織化学的に調べた。MRL/1prマウス(5ヵ月齢)から摘出した顎下腺のパラフィン包埋組織切片に酵素抗体法により免疫組織染色を行い、CD80、CD86、CD26、caveolin-1、Toll-1ike receptor 9 (TLR9)、TLR7、MyD88、Foxp3の発現について調べた。その結果、CD86、CD26、caveolin-1、TLR9、TLR7、MyD88が顎下腺の導管上皮細胞に発現しているのが認められた。一方、コントロールマウスMRL/+マウス(5ヵ月齢)では、導管上皮細胞におけるCD86、CD26、caveolin-1、TLR9、TLR7、MyD88の発現がMRL/1prに比較して極めて弱く、免疫組織化学的に有意ではなかった。また、Foxp3の発現は双方のマウスの炎症性細胞に、CD80の発現も双方のマウスの導管上皮細胞に同様に認められた。 シェーグレン症候群の発症機構には自己免疫反応が関係しており、これまで樹状細胞やマクロファージ等のprofessional抗原提示細胞によって自己反応性T細胞が活性化され、唾液腺の組織破壊が惹起されると考えられていた。今回の研究で、professional抗原提示細胞に特徴的に発現するCD80とCD86が導管上皮細胞にも発現していることが明らかとなり、professional抗原提示細胞ばかりではなく導管上皮細胞もT細胞とのcostimulation反応によって自己免疫反応に関与している可能性が考えられた。また、CD26とcaveoloin-1間のシグナル伝達によってIRAK1そしてNF-κBが活性化され、CD86の発現が誘導されることが報告されており、導管上皮細胞に発現しているCD26とcaveoloin-1がCD86の発現促進に関連することが示唆された。さらに、Foxp3はregulatory T cell (T reg)に特徴的に発現するマーカーであり、MRL/1prマウスにもT regがコントロールマウスと同様に存在することが明らかとなった。CD80にはT regの活性化作用のあることが分かっており、CD80が双方のマウスにおいてT regの活性化に関与していることが推察された。加えて、プラズマ細胞様樹状細胞に発現して、自己免疫疾患の原因となるTNFαやIFNαの産生に関係するTLR9とTLR7、ならびにそのシグナル伝達のcomponentであるMyD88が導管上皮細胞に発現していたことから、この2つの分子が前回の研究で明らかとなった導管上皮細胞によるTNFαの産生に関連することが考えられた。また、これらの所見は、シェーグレン症候群の発症機構には獲得免疫ばかりではなく自然免疫も関係するということを示唆していると考えた。
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