研究概要 |
本研究の目的は,歯科放射線学分野の研究の中から,規格化できる疫学指標をみつけることと,その指標が高齢者の歯の喪失と関連するものであるかを検討することである。 分析対象は無作為に選んだ126名(75歳)である。4名の歯科医師の口腔内診査により現在歯数を測定した。顎骨のレントゲン的評価は「下顎下縁皮質骨形態分類」を用いた。「下顎下縁皮質骨形態分類」とは,パノラマX線写真上での下顎下縁皮質骨の幅径と皮質骨断裂の所見を視覚的に形態分類したものである。 まず,「下顎下縁皮質骨形態分類」により126名の対象者を3群に分けた。「下顎下縁皮質骨形態分類」の発案者の一人であるA.Taguchiに90枚のパノラマX線写真の読影を依頼し,その結果と本調査での読影結果との間の一致率を評価した。各群の現在歯数の平均を分散分析により評価した。さらに「下顎下縁皮質骨形態分類」の1型を「異常所見なし:0」,2型と3型を「異常所見あり:1」に分類した。この分類と性別(男性:0,女性:1)を独立変数に,現在歯数を従属変数として重回帰分析をおこなった。 読影結果の一致率は,同一の検査者間で89.0%,異なる検査者間で85.7%であった。2型,3型(異常所見あり)と判定される割合は男性が40.3%なのに対し女性は91.5%と有意に高かった(x^2検定,p<0.001)。「下顎下縁皮質骨形態分類」と現在歯数との関連をみたところ,下顎皮質骨に異常所見がみられる群は,正常群と比較して有意に現在歯数が少ないことがわかった(1型:19.5本,2型:14.8本,3型:13.2本)(p<0.01,分散分析)。さらに,重回帰分析の結果,従属変数の現在歯数に関して,「下顎下縁皮質骨形態分類」が有意な独立変数(β=0.356,p=0.001)であった。 本調査結果から,「下顎下縁皮質骨形態分類」は,レントゲン的に顎骨を評価する際に,規格化できる指標であるといえる。また,歯の喪失と関連する可能性が示唆された。
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