本年度は、Streptococcus mutansの自己融解活性欠損株を作成し、その性質を解析することを目的とした。すでにS.mutansより自己融解酵素をコードしている遺伝子(atlA)のクローニングに成功しているので、まず、atlAにエリスロマイシン耐性遺伝子を挿入してS.mutansのatlA欠損株を作成した。野生株とatlA欠損株を用いて、ザイモグラフィー解析を行なったところ、野生株で認められた主要な溶菌バンドはatlA欠損株で消失した。さらに、atlA欠損株をS.mutansの自己融解活性の至適温度でインキュベーションしても自己融解がほとんど認められなかった。これらの結果から、S.mutansの自己融解活性の本体がatlA遺伝子産物であることがわかった。また、atlA欠損株では野生株に比べて連鎖が異常に長くなり、まるで糸のように菌体が連なっていることが明らかとなった。これは、atlA遺伝子産物が細胞分裂の際の細胞壁の切り離しに重要な役割を果たしていることを示した。 次に、野生株およびatlA欠損株についてバイオフィルム形成能を比較したところ、スクロースに依存したバイオフィルムの様相がかなり異なっていることが肉眼でも明瞭に認められた。電子顕微鏡で比較すると、野生株では均一なバイオフィルムが形成されるのに対し、atlA欠損株では極めて粗造なバイオフィルムが形成されていることが明らかとなった。atlAの失活がS.mutansの病原性にも影響していることが示唆された。 さらに、AtlAの精製を目的として、alA遺伝子をPCR法で増幅して発現ベクターpQE-80Lに挿入し、このプラスミドを用いて大腸菌DH5αの形質転換を行ったが、未だフルサイズのatlA遺伝子のクローニングに成功しておらず、現在、ベクターおよび大腸菌などを変えてクローニングを試みている。
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