研究概要 |
歯垢が誤嚥性肺炎の感染源であることを実験的に検証するためにヒト歯垢そのものを用いて肺炎誘発実験を行った。健康な成人3名から歯肉縁上プラークを採取し、全身麻酔下にてBALB/cマウス(雄、体重20〜25g)の気管内にプラーク懸濁液を1匹あたり1.0×10^7CFUずつ注入した。経日的にマウスの毛並み、体重、餌の摂取量、活動性を観察した。死亡時、注入3日、7日後に全身麻酔下にてマウスの肺を摘出し、ホモジナイズ後、ビタミンB6を添加したコロンビア5%ヒツジ血液寒天培地およびGAM寒天培地にて48時間嫌気培養を行った。得られたコロニーをその形態や溶血性の違いにより分類し、代表コロニーをそれぞれ分離培養後、グラム染色、Rapid ID 32 Strep APIにより菌種の同定を行い、菌種毎にコロニー数を算定した。ヒトデンタルプラーク懸濁液の注入直後から、マウスの毛は逆立ち、体重や活動性の減少が認められ、被験マウス18匹中12匹が死亡した。死亡マウス10匹、生存マウス6匹におい肺中の菌を検索したところ、死亡したマウス全てから菌が検出された。一方生存マウスは6匹中5匹に菌が検出された。肺中の菌数(Log_<10>CFU/mg)は死亡マウスおよび生存マウスではそれぞれ4.44±0.77および0.38±0.38であり、死亡マウスの肺には有意に多くの菌が認められた(Student's t test, P<0.05)。肺からはStreptocoocus oralis、Gemella morbillorum、Streptocoocus mitisといった菌が検出されたが、特定の菌種が偏って検出されることはなかった。病理組織学的には、肺には菌塊が認められ、その周囲には炎症細胞の浸潤が観察された。以上の結果よりマウス実験モデルにおいてヒト歯垢は誤嚥性肺炎の感染源となることが示唆された。
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