揮発性硫黄化合物(硫化水素)は口臭の原因物質であり、歯周疾患の危険因子であることが知られている。しかし揮発性硫黄化合物の歯槽骨に及ぼす影響については全く解明されていない。そこで本研究では、ヒト骨芽細胞およびヒト破骨細胞前駆細胞に口腔内から検出される揮発性硫黄化合物である硫化水素を作用させて、細胞増殖機構ならびに分化機構に対する影響を検索した。その結果、硫化水素はヒト骨芽細胞ならびにマウス由来骨芽細胞株MC3T3-E1の細胞増殖を濃度依存的に抑制した。この時の細胞内シグナル伝達中心的役割を担っているMAPKファミリーのE照ならびにp38の活性化を調べたところ、硫化水素の濃度依存的にE照ならびにp38のリン酸化の促進効果が認められた。さらにこれらのリン酸化は硫化水素処理後10から30分で顕著に現れ、それ以降リン酸活性は減少することが認められた。また硫化水素を細胞に作用させてもヒト骨芽細胞は破骨細胞分化誘導因子であるRANKLを発現していないことが判明した。一方、低濃度の硫化水素はヒト破骨細胞前駆細胞から酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼの多核細胞への分化誘導を抑制した。また分化誘導された多核細胞の骨吸収能を抑制することも明らかになった。以上の結果から、揮発性硫黄化合物は骨芽細胞の増殖を抑制するとともに破骨細胞の分化誘導をも抑制し、その結果骨リモデリングの平衡を乱して歯槽骨の機能低下を誘引する可能性が示唆された。
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