本研究の目的は、個人の微生物因子における齲蝕リスクを評価する指標として、歯垢内齲蝕関連菌を層別に検索することの有用性を探ることにある。 近年、一部の乳酸桿菌により口腔細菌叢が影響を受けることが知られており、国内乳業メーカーが販売するロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)配合ヨーグルトの消費により、混合唾液中のS.mutansレベルが有意に低下したとする報告がある。このヨーグルトにはスクロースが7%添加されており、今回歯垢生態系への影響を検討するための介入手段として、この食品の摂取を選定した。 18名の女性被験者を対象に、2週間にわたり昼食後にこのヨーグルトを摂取させた。2週目に上顎大臼歯部に歯垢採取装置を取り付け、その部位のブラッシングを避けることで、ロイテリ菌作用下で歯垢を形成・堆積させた(実験群)。同様に、ロイテリ菌のみを除外したプラセボヨーグルトの消費期間中(プラセボ群)と、ヨーグルトを消費しない期間中(対照群)に、それぞれ歯垢を形成させた。各歯垢試料は層別マッピングを行うため、先の研究課題で開発した方法で6〜10層の層別試料分画に分離した。16S ribosomal RNA遺伝子領域のプライマーを利用したnested PCRで定性的分析を行い、歯垢内のS.mutansとS.sobrinusの層別分布パターンを比較検討した。 S.mutansとS.sobrinusが検出された層の割合は、実験群64%と18%、プラセボ群88%と31%、対照群59%と11%で、S.mutansはプラセボ群で実験群および対照群に対して、S.sobrinusはプラセボ群で対照群に対して有意差が認められた。従って、ロイテリ菌配合ヨーグルトの消費による歯垢内での齲蝕関連菌生息域の縮小は認められなかったが、その原因としてヨーグルトに添加されたスクロースの作用が示唆された。
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