抗菌作用と歯垢形成の抑制作用をもつフッ化第一スズを使い、歯垢構造と歯垢内の齲蝕関連菌生態系の変化の関連を検討した。 1日2回フッ化第一スズゲルを用いたブラッシングを2週間続けた被験者10名(年齢20〜24歳)から、その前後の期間に上顎大臼歯部に歯垢採取装置を取り付け、3日間のブラッシング停止で堆積した歯垢試料を採取した。各試料は厚さ100μmの7〜10層の層別歯垢分画に分離し、画像解析により各試料分画の体積を測定した。また、各分画から抽出したgenomic DNAをPCR増幅し、アガロースゲル電気泳動後、S.mutansの有無を判定した。 細菌陽性の試料分画の分布は、被験者間で大きな差が認められた。しかし、試料分画の細菌陽性率はフッ化第一スズ応用前15.3%に対して応用後53.3%と有意に増加し、歯垢内でS.mutansの生息域は拡大していた。一方、歯垢の容積(mm3)は、応用前0.101士0.053に対して応用後0.082±0.039と有意に低下したが、平均分画数が応用前8.5と応用後8.2で差がないことから、構造の変化が示唆された。 口腔環境中に残存したフッ化第一スズによる歯垢構造の多孔性変化は、歯垢内のS.mutansに対して抗菌作用より生息域め拡大に作用したものと考えられた。 現在、口腔保健用の特定保健用食品として、非・低齲蝕誘発性やエナメル質の再石灰化作用を有する製品が実用化されている。歯垢細菌叢のコントロールも重要な機能性であるが、この特性の評価方法はまだ未確立で重要性もあまり認知されておらず、その機能を謳った食品はまだ市販されていない。定量的層別マッピング法による今後の研究として、機能性食品による歯垢への介入効果の評価が挙げられる。具体的には、腸内でのミネラル吸収促進作用を有するオリゴ糖(商品名ツイントース、(株)ファンケル)の歯科分野での応用性の検討を進めている。
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