研究課題
今年度は、看護倫理教育の内容や方法を検討するにあたり、『看護倫理』の捉え方、看護倫理のコアを明らかにすることを目的にした。方法としては、6名の看護職に対して『看護職が経験した倫理的事例』に関する2回のインタビューを行うことによって、これらを明確にした。インタビューから明らかになったことは以下の通りである。語られた事例の多くが、出産やターミナルケアなど、人の生死に関わることであった。看護職が体験している倫理的事例には主に、(1)患者と家族の意思が異なる場合に、看護師はどのような立場をとり行動すればよいか、(2)医師のやり方と患者の要望がずれている場合、看護師はどちらを優先して行動したらよいか、(3)看護師自身の尊厳をどのように守るか、(4)患者に価値を押しつけていないか、(5)看護師が患者とは違う価値観を持っているときに、どのように折り合いをつけていくか、(6)医師と看護師の価値観がずれたときに、何がもっともよかったのかをどのように判断するか、ということであった。これらの事例から、対象となる患者が何をどう考えているのかを知る必要はあるが、患者の思いや考えをすべて尊重したり、巻き込まれるだけではなく、対応には専門職としての判断が重要となる事、医療者が何か1つの主義や主張にしばられると、患者がその主義、主張のはざまに取り残される可能性がある事が明らかになった。したがって、看護倫理教育では、1つのことに固執することなく、多くのことから考え、対応していけるだけの素地を作る必要があることがわかった。そのため、看護倫理教育で押さえる内容としては、大きく(1)看護とはなにか、(2)看護が扱う人間という存在とは(人間観)、(3)倫理とは、という枠組みのなかで知識を取り扱い、その中で具体的事象を用いながら、看護倫理について考えていける力を培うようにすることが必要であることが明らかになった。