一般病院においてがん看護に携わる看護師の倫理的問題への対応を支援するコーチングシステムの洗練を図る過程において、明らかにされた内容は下記の2点である。 (1)個人単位のコーチングシステムとして、倫理に関する基礎的理解から、臨床倫理に至る実践的な内容へと、知識を深化させていく、学習機会を系統的に準備する必要性があることがわかった。この点は、教育背景の多様性と、看護学教育のコアとして教授すべき看護倫理について、具体的にはコンセンサスが得られていない状況が影響していた。また、このシステムにおいては、各看護師を患者の擁護者として、エンパワーすることも重要であることがわかった。がん看護領域の倫理的問題の大半は、患者・家族の意思決定にある。治療に関する意思決定が医師主導に行われてきた組織文化では、個々の看護師が意志決定支援者であると自覚しにくく、倫理的感性も発揮されにくい。 (2)病棟単位のコーチングシステムとして、集団の変革は特定の個人の認識では起こりにくいことがわかったため、病棟単位で倫理的問題への対応を高めていくには、病棟全体が問題を体験しているときが好機である。しかし、病棟看護師が問題と認識するすべてが倫理的問題であるとは限らず、倫理的問題であってもそれに気づかず漠然と問題視している場合もあった。これらのことから、看護師のとらえた問題を広く受け付ける窓口を設け、そこに問題を分析し判断できるコアとなる人材をおき、分類するよう、組織化することが現実的な運用には必要であることがわかった。
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