研究概要 |
本研究は,施設高齢者の転倒リスクに応じた個への介入をエビデンスに基づいて,システマティックに行える転倒予防プログラムを開発することを目的とした,3年間にわたる研究である。 1.転倒予防プログラムの試作 コクランライブラリ,MEDLINE,医学中央雑誌などからrandomized controlled trialとmeta-analysisを中心とした研究を検討し試作した。プログラムの骨子はアセスメントツールによる転倒リスクの振り分け,看護・介護職者への教育,高齢者・家族への教育,多専門職種による個の転倒リスクに応じた介入計画立案と導入,転倒発生後の多専門職種による原因解明と介入計画の修正である。 2.高齢者施設の転倒発生に関わる環境(転倒環境)を高齢者サイドの視点から明らかにする 転倒環境は,施設高齢者を対象とした12の研究から項目を抽出,さらに研究者らの意見を加え計50項目から成る転倒環境リストを作成し,調査した。なお,転倒環境とは施設構造・状態,移動用具,環境と関連した高齢者の行動などである。対象は同意が得られた介護老人保健施設と医療型療養病床の65歳以上の高齢者31名(82.9±8.5歳)であり,聞き取りおよび参加観察法を用いた。結果,転倒環境は計123個あり,重複をまとめると72個,リストの項目別に振り分けると25項目となり,残り25項目は全くみられなかった。最も多かった項目は<移乗時・乗車時の危険>であり,内容は「(忘れて)車椅子のブレーキを止めないで移乗」「関節拘縮・変形による車椅子上の不安定な姿勢」などであった。リスト外の項目として,「(車椅子座面が高くても)自分が環境や状況に合わせる」「(要介助でも)なるべく自分でする」といった<対象の考え方>や歩行補助具の選択など<高齢者・家族と医療者の意見の不一致>が挙がった。夜間の室内の照度が2ルクス未満があった。下腿長と車椅子の高さの差は4.6±2.6(-1.0〜8.0)cmであり,転倒とは0.594(p<0.01)の関係があった。
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