研究概要 |
本研究は,施設高齢者の転倒リスクに応じたエビデンスに基づく転倒予防プログラムを開発することを目的とした,3年間にわたる研究である。今年度の目的は,転倒予防に対するケアの質向上として、スタッフのケア能力やケアに対する動機を通したリサーチ・ユーティリゼーションを踏まえての施設高齢者の個の転倒リスクに応じて開発した転倒予防プログラムを試行することであった。研究デザインは対照群を設けた準実験的研究であり、2週間のパイロットスタディの後、6ヶ月間の介入による効果の評価を行った。対象は介入群30名(83.0±9.5歳),対照群21名(84.5±8.0歳)であった。対象群には通常の転倒予防ケアを実施した。介入群は,アクションリサーチにおけるミューチュアルアプローチ手法を用いたスタッフの転倒予防に対するケア能力の向上を通して行った。ミューチュアルアプローチは,研究の主体が研究者と実践者の両者であり,両者による共同アプローチにより問題や原因を明らかにし,介入計画を立案,実践することが特徴である。具他的には,施設内で転倒予防プロジェクトチームを立ち上げ,転倒予防に関するスタッフの"願い"を確認した後,2週間ごとに検討会を開き,チーム員は"願い"である「活動制限や身体拘束をしないで転倒予防を行う」ことに従い,実施したことに対する内省を繰り返すとともに転倒リスクの高い高齢者を中心に予防策を立て実施し,かつスタッフヘの教育指導や研修会・スタッフとの意見交換会の開催をとおしてスタッフのケア能力向上を行った。明らかとなった問題は,個々の高齢者の転倒につながる情報がスタッフ間で共有されていなかったことであり,伝達方法の改善を業務内に取り組んだ。結果,転倒リスクが両群に差のない状態(介入群5.2±2.7点・対照群5.7±2.2点)で,転倒件数は対照群に変化はなかったが,介入群は39件から28件に減少した。
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