本年度は、親による子どもの治療拒否(医療ネグレクト)の定義・法的介入の手順・手続きを明らかにすることである。日本において報告されている医療ネグレクト文献と、実際に医療ネグレクトに関わったことのある弁護士の助言を受けて、定義・法的介入の問題・手続きを明らかにした。 その結果、医療ネグレクトとは、親の治療拒否の理由は問わず、その時点の医療水準や社会通念を考慮し、子どもに必要だと判断される治療があり、その治療をしなければ子どもの心身になんらかの障害がある治療を親が拒否することと、子どもの健康に何らかの異常があるにも関わらず、医療機関を全く受診しないことや、疾病予防ないし疾病の早期発見を目的とした健康診査や予防接種を保護者の判断で受診しないこといえる。 わが国の医療ネグレクトへの法的介入に関する問題点としては、手続きに非常に時間がかかることや、戸籍に親権喪失が記載されることがある。また民法は、親の機能をはたしていないときの親権の制限と、改善を条件付けた回復の手立てを用意していないことなどがある。現行法で医療ネグレクトに法的介入を行うには、法の不備があり、法を整備する必要性が指摘されている。今後は、医療ネグレクトの介入を目的にする法の整備や、臨床の問題を検討する倫理委員会の活用など、医療ネグレクトに対応するためのシステムが整備されることが望まれる。
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