本年度の研究目的は、退院直後の家族介護者が経験する病人とともにある生活に焦点を当て、どのように新しい生活を作りだしているのかを明らかにすることである。それゆえ、病人が入院中に退院することを医療者から告げられてから、家に帰ることを決意し、家で病人とともにある生活を始めた退院直後の時期にある家族介護者の経験を探求することとし、研究デザインはグラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた質的記述的研究とした。 研究参加者は、病院から退院後1年未満の病人を抱えた家族介護者で初めて介護を経験する同居家族とし、病人は65歳以上の高齢者で要介護状態にある人とした。研究協力機関は、関東近郊にある病院および訪問看護ステーションである。最終的な研究参加者は22名で、自由意志の保障とプライバシーの保護、録音の許可等を文書にした同意書の署名を受け、研究参加者に不利益がないよう倫理的配慮を行なった。インタビューは90分から120分で、グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法に基づいて分析した。 分析の結果、これまで退院直後の家族介護者の支援は、病状管理や医療機器の技術習得等の能力獲得に焦点が当てられていたが、当事者である家族介護者が経験する家で病人とともにある生活とは未知なる経験であり、それを介護者自身の生活として確かなものとするために、家族介護者自らが過去の経験から未来を予測しながら新しく創りだしていく営みであると解釈できた。家族にとって家は生活の基盤であり、その家という場の空間と時間を基本的な思考枠組みにし、そこに病人とともにある過去の暮らしの経験から培われた価値観とを重ね合わせ、自分のやり方を見出し、誰のためでもない介護者自身の生活を作り出していたものと考えられた。病院から退院する患者・家族を支援していくためには、家族介護者が自分の生活を具現化できるようにかかわることの重要性が示唆された。
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