昨年度までの研究では、家族介護者にとって家は生活の基盤であり、その家という場の空間と時間を基本的な思考枠組みにし、生活を作り出していた。そして、過去の暮らしの経験から培われた価値観とを重ね合わせ、自分のやり方を見出し、誰のためでもない介護者自身の生活を作り出していたことが示された。 そこで本年度は、さらに分析を深め、「在宅移行を経験する家族介護者の生活を創り出すプロセス」を構成する概念を生成し構造化する。その分析結果を研究参加者に提示し、具体性理論として現象との適合性を検証することを目的とした。 在宅移行を経験する家族介護者の生活を創り出すプロセスとは、「自分がわかる」を創りだしていくことによって、新たな自分の生活をわかるようにしていくプロセスであると見出された。このプロセスは"自分の生活がわからなくなる"から、"新たな自分の生活がわかるようになる"までの状況の変化を示しており、「病人が家にいる」ことを家族介護者が主観的に意味づけた生活感覚という認識の変化であった。この結果は、Glaser and Strauss(1965)およびStrauss&Corbin(1996)の提唱する理論化における特性「現実への適合性」(fitness)、「理解しやすさ」(understanding)、「一般性」(generality)について吟味し研究参加者5名によって、検証された。 その結果、退院直後の当事者の現実に適合し、当事者に理解可能な形で理論化されたことが明らかとなった。それゆえ、本研究の知見は退院前後にかかわる保健医療福祉にかかわる支援者にとって当事者の変化をとらえる指標となるばかりではなく、支援の妥当性を把握するための指標となる示唆が得られたと考える。
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