本研究は、三味線音楽における音楽様式の違いを、三味線演奏時の身体運動という視点から明らかにすることを目的とする。初年度は方法論の検討を中心に研究を行った。演奏者が演奏時の身体運動についてどのような意識をもっているのかを明らかにするために、長唄、地歌、義太夫等、ジャンルの異なる三味線演奏者を対象にインタビュー調査を実施した。その結果、演奏者にとって左手で勘所を押さえる運動は「無意識的な身体運動」と認識されていて、むしろ彼らの表現活動においては右手のバチの運動に対する意識が大きいこと、従って演奏者の演奏時の身体運動に関する無意識的な認識をインタビュー調査からさらに引き出すためには、音楽様式と連動した形での問いが必要であることが明らかになった。そこで様式と左手の身体運動の関係を演奏家が意識する事例のひとつとして、非古典的な音楽様式をもつ三味線曲にも目を向けている必要があると考え、山田抄太郎、今藤長十郎、杵屋正邦ら昭和に作曲活動を行った音楽家の長唄作品、現代邦楽作品について調査を行った。現代長唄作品については、資料が入手しにくいため、分析作業は今後の課題である。現代の長唄作品については、7月にイギリスで行われた国際伝統音楽学会(International Council for Traditional Music)の世界大会で発表、その時に大会に参加していた民族音楽学者とも、身体運動との関係から音楽様式を記述する方法について意見交換を行った。
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