本研究は、三味線音楽における音楽様式の違いを、三味線演奏時の身体運動という視点から明らかにすることを目的とする。今年度は、本調子の調弦を対象に、棹の上部を押さえて基本的な旋律を作り出す時の左手の運動に着目し、楽曲の分析と演奏者へのインタビュー調査から、長唄、地歌、義太夫というジャンルの異なる3種類の三味線音楽において、基本的な旋律の動きにおける相違点を明らかにした。 これらのジャンルにおいて、調弦法や重要な勘所は共通である。ジャンルによる楽器の音色の違い、旋律型の違いはあるものの、旋律を構成する音の動きには共通するものが多い。特に、棹の上部を押さえて作り出す旋律は類似性が高い。本年度の研究では、このような基本の音の動きが共通する旋律であっても、それを装飾する細かい音の動きが、ジャンルによって異なっていることが明らかになった。この場合の装飾の動きは、左手の異なる身体運動によって実現される。同じ勘所でもそれをどの指で押さえるか、旋律の動きの中に開放弦を挿入するかどうか、挿入する場合どこで挿入するか等の違いが、類似の音進行の中にジャンルの特徴を作り出しているのである。これまでジャンルによる音楽的な相違については、楽器の音色の違いや、旋律型の違いが指摘されていたが、類似の音の進行がジャンルによって異なる装飾法をもつことは本研究によって得られた新たな知見である。 この研究成果については、9月に秋田大学で行われた日本音楽学会東北北海道支部例会において口頭発表を行った。
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