本研究は、三味線音楽における音楽様式の違いを、三味線演奏時の身体運動という視点から明らかにすることを目的としている。1年目と2年目には、演奏家の身体意識の調査、長唄と他の三味線音楽との身体運動に関する相違点の抽出、現代作品における新しい身体運動の抽出を行ったが、3年目に当たる今年度は、三味線の調弦、作品の時代様式、その他音楽様式の違いを生み出す三味線演奏時の身体運動の特徴を抽出するため、具体的な作品分析の方法を検討しながら分析作業を開始した。 長唄曲は概して長大なものが多く、1曲の中で調弦が変わったり、途中で他の種目の音楽様式を模倣するなど、曲内部の音楽様式に変化がある点が特徴である。そこで、小泉文夫のテトラコルド理論で示された完全4度の枠組を単位として旋律を切り取り、身体運動として記述するという方法を採用して分析を開始した。4度の枠組みがどのような動作素(小塩2002)で演奏されるのかを調弦ごとに調査するとともに、時代様式により頻出する4度の枠組みに違いがあるかどうか、多種目の音楽様式の引用箇所において通常の長唄とは異なる動作素の出現や4度枠内の音の動きがあるかどうかについても分析を行っている。まだ分析中途であるため、具体的な結果をここで提示することはできないが、最終年度の前半まで分析を継続し、その後、分析結果を整理することで、身体運動からの音楽様式の違いを明らかにする予定である。 引用文献:小塩さとみ2002『長唄三下り曲における旋律生成の仕組み』お茶の水女子大学人間文化研究科提出博士論文
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