環境芸術の根本的な存在意義を考察する上で、手始めとして都市文化の未発達あるいは自然環境が都市化せずに、いわゆる大自然が残されている地域の文化に触れることから考察をスタートさせた。環境芸術を考えるとき、通常その基底にあるのは「都市環境」であり、日本に住する研究者にとってみれば、現在身を置く社会環境下での芸術のはたらきが尺度となる。しかしながらどのような社会環境にあっても人間と芸術の間におこる作用は、人間が社会を形成する際に常に密接な関わりを持ってきたことは歴史的にみても明らかである。だとすれば都市化という枠組みで捉えきれるものではなく人間の原初的な営みや土俗的な文化、あるいは大きな意味における宗教を考えていかないわけにはいかない。「環境と文明」の相互関係や「環境人類学」「環境考古学」などの新しい学問領域の視点を活用の必要性を強く感じているところである。「芸術」という定義を従来の表象芸術で語られるところの絵画、彫刻といった純粋芸術に留まらず、デザイン、建築といった明確な機能を有する領域のものについても環境芸術の視点から社会的機能を持つものとして評価が必要になってきている点は当然であるが、環境の中心にある「人間」・「自然」という根源的な問題を踏まえなければならない。現代の社会はグローバルな情報化とともに地球全体が多様な文化や地域性を尊重し、多元的な価値観について相互理解を図ろうとする時代になってきている一方、政治、経済、宗教などの差異からおこる諸問題において、干渉し、衝突するという矛盾を孕んだ社会となっている。こうした複雑で問題の解答が定まらない社会環境のなかで、「環境芸術」=「社会と密接に関わる芸術」が、重要な指針を社会に提示していくためには、より広範な通底する問題に取り組む必要がある。以上の視点にたって、考察を進めている。
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