「ロマンティック・バレエ『ジゼル』を復曲する試み」と題する研究の第二年度は、現行曲として流布している『ジゼル』の諸版の異同、また初演時のパリの資料はほぼ踏査された観があるので、初演後すぐに公演が継続されたベルリンとウィーンを中心にして、当時の批評などを精査し、また、ほぼ同時代に初演されたロマンティック・バレエの現行作品、並びに主としてラコッタによって試みられた初演時の形態の復曲、またまだまったく手の着いてない、いまは廃曲になっている作品などの版の異同、初演時の批評などを、同じくベルリンを中心に現地調査した。その結果、とくにベルリンには、国立図書館(Staatsbibliothek)などで膨大な資料が未整理のまま埋もれていることが判明し、また一部、貴重な資料を発見することもできた。またウィーンでは、ロマンティック・バレエの末期(パリではバレエは衰退していた)に活躍した作曲家ヨーゼフ・バイヤー(Josef Bayer)とその代表作『妖精人形』(Puppenfee)の初演を巡る状況などを資料的に発見することができ、その再演に立ち会うこともできた。それは、ロマンティック・バレエの歴史の空隙を埋め、『ジゼル』の復曲に役立つ様々なデータをそこから取り出すことができるような大きな収穫である。これについては次年度において部分的に論文化して発表し、その扱いの是非を世に問うつもりである。 また、ヨーロッパでしか入手できない市販のDVD、あるいは私家版のDVDやビデオ・テープ、また音楽のみに関わるCD、それに若干の文字資料(復曲のプロセスを語ったもの、あるいは初演時の形態を記録した文献など)を収集する努力もしてみたが、これはさすがに時間的な制約がたって思うに任せなかった。次年度を期したい。 現地において収集した資料のアーカイヴ化およびカタログ化はコンピュータと特別なソフトの使用によって飛躍的に進展した。今後の成果の発表はこうして作成されたアーカイヴ、およびカタログ抜きではもう考えられないところまで来ている。 また研究者の健康が、前年に引き続いて万全ではなかったので、現地調査を複数回にわたって実施することができなかった。次年度ではできるだけ多くの時間を現地調査に割くようにしたい。また同じ理由で、論文等の研究発表がほとんど不可能であったことも遺憾であり、研究成果の発表等は次年度の最重要課題としたい。
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