本研究課題の最終目標は、最終年度に復曲された『ジゼル』を実際の上演にまで持ち込むというものであったが、それは果たせなかった。復刻された他のロマンティック・バレエ(『ラ・シルフィード』など)とちがって、十九世紀末に成立したプティパ版がその後、命脈を保ち、それどころか異常なくらいの人気曲にまでなっている『ジゼル』の場合、復曲の必要が感じられないまま、資料が散逸し、ついにもとの振付など、完全に失われてしまう事態に至ったようである。今回調査した、パリ以外の周辺諸国、ウィーン、ベルリン、ミュンヘン、ブリュージュ、コペンハーゲンなどでも有効なデータを発見することができなかった。したがって、本研究課題のもっとも重要なテーマ、通俗なメロドラマに覆われて原型がみえない『ジゼル』を復曲して、ロマンティック・オペラの本質を開示させるという目標はひとまず、ペンディングということにせざるをえないが、調査と復曲の努力の課程で、その『ジゼル』とロマンティック・バレエの本質を隠蔽する典型的な近代のメロドラマの殻を打ち壊し、このロマンティック・バレエの代表作において、19世紀初頭の女性の身体に起きた革命的な出来事については、その大半を明らかにすることができた。復曲しようと努力する課程で訪問した各国において収集しえた文献資料や映像ソフトなどをフルに活用することができた結果である。この最終年度は、とくに映像ソフトの収集と、その十全な再生に大半の資金と時間、エネルギーを注ぎ込んだ。その成果は、最終年度に提出される報告書に盛り込まれることになっている。また前年度に引きつづき、この報告書を原形とする、ロマンティック・バレエを中心とする舞踊の歴史(できれば平成21年度3月までに上梓したい)の執筆に全力を傾注しているので、雑誌論文などを書く余暇をみいだすことができなかった。本研究課題の学問的成果はあげてこの書物に盛り込むべく、本研究課題を引き継いでさらに努力を重ねている最中である。
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