研究概要 |
本研究の目的は、W.B.イェイツの詩劇における舞台表象の複合的な構造を明らかにすることであった。平成17年度においては、実施計画に従い『窓ガラスに刻まれた言葉』と『エマーの唯一度の嫉妬』の二作を分析し、下記の研究発表を行った。論文二編のうち、一編は『英文学研究』に投稿中、他一編はJournal of Irish Studiesに投稿申し込み中である。 佐藤容子「The Words Upon the Window-Paneの舞台表象について」,日本イェイツ協会第41回大会,京都橘大学,平成17年9月11日. Yoko Sato, "The Only Jealousy of Emer : Yeats's Art of Representations," The IASIL-Japan 22^<nd> International Conference, Musashino University, Oct.9, 2005. イェイツがその詩において体系的に用いているサウンド・シンボリズムの観点からみると、散文劇の『窓ガラスに刻まれた言葉』においては"b"音が優勢であることがわかった。これは肉体と精神の葛藤があまりに深いことの表象であり、この劇作が能の形式に倣いながら、葛藤の昇華の表現である「舞踏」は暗示があるのみで、舞台上に視覚化されないことと対応関係にある。 『エマーの唯一度の嫉妬』では、イェイツが対立的に用いる"b"音(その類似音の"p"音)と"f"音が枠組みの歌に交互に現れることで境界領域的なトポスを創造している。また"b"音と"f"音の対立は、トリックスター‘Bricriu'と海神の妻‘Fand'の象徴的な名前によっても具現化されていること、このサウンド・シンボリズムを支えとして、イェイツが妖精の取り替え子のモチーフ、アイルランド伝説、能の形式を独自に変形し組み合わせて、自己犠牲と表裏一体にある英雄の生還を劇化していることを明らかにした。
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