本年度は、17年度に実施した資料収集と調査に基づいて、本研究の目的である1)「橋」の活動の実態、2)ポーストマンの業績、3)1920年代のグラフィックデザインへの情報組織化運動の影響の3点について継続して考察し、そのまとめを行った。その結果得られた知見は以下のとおりである。 1)「橋」の活動の実態 従来「橋」の活動は、オストヴァルトを中心に論じられてきた。本研究では、「橋」設立者の1人であったカール・ビュラーの活動に焦点をあてて「橋」の活動を考察した。まず「橋」の構想にさいしては、ポール・オトレの関与が少なからぬ影響を与えたことを指摘した。次に、橋の活動のうちパンフレットの出版事業の全貌を明らかにし、「橋」が提唱した「世界フォーマット」の波及のおおよその実態を把握することができた。中でも、特に「橋」はドイツ工作連盟と関連を有しており、具体的に1914年の工作連盟の展覧会ポスターに、世界フォーマットが採用されていることが判明した。以上から、「橋」のグラフィックデザインへの影響が、すでに1910年代において見られることが分かった。 2)ポーストマンの業績 オストヴァルトのアシスタントで秘書を務めていたポーストマンはメートル体系の研究者であり、オストヴァルトの世界フォーマットの構想を批判的に継承した。その結果、1918年に開催された標準化委員会において、ポーストマンの案が官公庁代表に受け入れられ、DINフォーマットとして制定された。本研究ではその経緯を明らかにした。 3)1920年代のグラフィックデザインへの影響 1920年代のグラフィックデザインのうち、特に構成主義の芸術概念であった「要素主義」に基づいた「要素的タイポグラフィ」の動向に、情報組織化の概念が受容されたことを、具体的にバウハウスのハーバート・バイヤー、ならびにヤン・チヒョルトの文章と作品を分析することで論証した。
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