研究概要 |
今年度は研究課題を有効に遂行するために以下の4つの項目に分けてそれぞれ研究を行った。 1.カンボジア伝統芸能についての文献研究と現地調査。現地調査では伝統芸能の上演組織を訪ね,スバエク・トムを素材にしたメディアアート制作に参加してくれる組織を探した。それは同時に伝統芸能復活維持の実態調査につながった。もちろんスバエク・トム自体の調査も行い,影絵劇の構成要素を詳細に研究するために,音楽・舞踊・影絵についての映像音声資料を作成した。 2.メディアアートに関する先行作品の分析・研究。ただし狭義のメディアアートだけを対象にするのではなく,メディアアートを構成する映像や音楽についての個別の分析・研究を行った。特に「影絵劇と音楽」の類似関係から「映像と音楽」の関わりで「アートアニメーション」を取り上げ,ノーマン・マクラーレン作品などを詳細に分析し,その構造を明らかにした。また,筋書きの影絵劇化に関連させてノンリニアな展開を可能にするデジタル絵本を取り上げ,クヴェタ・パツォウスカー作品などを詳細に分析し,新たな物語表現の可能性の一端を明らかにした。 3.スバエク・トムをメディアアートとして上演・上映・展示するための技術的な研究。例えば,カンボジアの気候風土を活かした音響音声システムの可能性や,野外での環境音を素材として積極的に取り込んだ音響設計のあり方などについて調査した。 4.スバエク・トムについての文献研究と現地調査の今年度の成果を踏まえた音楽系メディアアートの制作・上演。その中で,デジタル影絵劇『ラーマヤナ異聞』は,スバエク・トムの素材でもあるラーマヤナ物語をもとに,登場人物の動きで映像と音響を生成する新たに開発したシステムを用いた上演時間10分ほどの作品である。映像音響詩『ラーマヤナ異聞その2』はスバエク・トムの影絵人形を素材とした上映時間7分の映像アートの形態の作品である。
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