本年度は、主として日本におけるギリシア悲劇上演の歴史を調査するとともに、欧米を中心とした海外のギリシア悲劇の現代上演を、1968年のシェクナーのDionysus in 69および同年のLivint Theareのブレヒト版アンティゴネを起点として、イデオロギー性と形式性の二つの観点から研究した。 日本においては、特に1958年から13年間に及んだ東京大学ギリシヤ悲劇研究会の上演実践について、その「古代様式の復元」の実態がいかなるものだったのかを、特に最初の五年間を中心に詳細に検証し、その後の鈴木・蜷川を中心とする日本の上演の検討をおこなった。 欧米に関しては、イデオロギー的契機と様式的契機のそれぞれについて、シェクナー、リヴィング・シアター、ペーター・シュタイン、太陽劇団など、時代を画する上演の検討を行い、時代状況への反応が鋭い様式的意識と結びつくときにギリシア悲劇の上演が影響力が大きなものになることを確認した。特にリヴィング・シアターの『アンティゴネ』に関しては、場面ごとの分析を通じてその上演の持つ大きな意義を検証した。これは一年目にシェクナーのDionysus in 69についておこなったのとほぼ同じ方法を用いている。この方法での研究は、鈴木の「悲劇-アトレウス家の崩壊」に関してもおこなった。文献だけでなく映像資料に非常に大きく依存する方法であり、研究対象の初期に位置する60年代の上演については映像資料が断片的であることに困難が認められたが、全体としては価値ある研究になりえた。 これらの研究に基づいて、三月に、研究成果の報告書を作成した。
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