研究課題/領域番号 |
17600025
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
諏訪 春雄 学習院大学, 学習院大学, 名誉教授 (60082921)
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研究分担者 |
有澤 晶子 東洋大学, 文学部, 教授 (60246775)
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キーワード | 元宵節 / 小正月 / ランタンフェスティバル / 団子 / 星祭り / 祖先祭祀 / 道教 / 連続と断絶の死生観 |
研究概要 |
平成19年11月に中国湖南省長沙市で開催される予定であった中国民間文芸家協会主催の稲作文化に関するシンポジウムが都合により中止になった。代わって、平成20年2月20日(旧暦1月14日)(水)に日本を出発、21日、台湾宜蘭縣民俗廟會を終日見学、民俗資料館ほかで関係資料を収集し、元宵節についての考察を深めた。その結果、以下のようなことが明らかになった。 現在の中国大陸やアジアの華人社会で行われる元宵節は、一様にランタンフェスティバルとなっているが、次の3つの特色を示している。1元宵または湯円ともよばれる団子をたべる。2星を祭る習俗とされる。3祖先祭祀である。この2は1と矛盾する。1の団子はもち米を使用することからみても、本来は中国南方の稲作民の習俗であった。季節の境目に餅を食するという習俗は、米への信仰から発している。日本の正月にたべる餅とおなじ民俗である。他方、2の星祭りは太一つまり北極星を信仰することである。中国北方にはじまる信仰であって、古代の中国南方にはなかった。現在の元宵節は、中国南方習俗と北方習俗が融合している可能性がつよい。ここで考慮すべきが3である。元宵節を祖先祭祀の目とする習俗は、広東、福建、台湾などの中国南部に広がっている。これらの地方では、各家が元宵節に元宵餅をたべたあと、宗族の祠堂へゆき、鶏や魚、肉、果物などをそなえる風習がある。祠堂には一つひとつ灯籠が掛けられていて、家長が家族の平安を祖先に祈る。以上を総合して、本来、元宵節は中国南部で形成された祖先祭祀であり、団子は祖先の霊魂であり、火は魂迎えの依代という性格をもっていた。 このようにみてくると、元宵節の原型は日本の小正月と共通する習俗であった。元宵節と小正月には、旧暦の1月15日の行事である、太陰太陽暦(旧暦)に関わる行事である、特別食(小豆飯や餅と餡餅)を食べる、火の行事である、などの類似点がある。しかし、現状では、元宵節は道教とふかく関わるが小正月はその影響が希薄である、小正月は農業とふかく関わるが元宵節は希薄である、などの相違点もある。そのため、小正月の根底には死と生が交替する循環の死生観が存在するのに対し、元宵節には、道教の特色である死と生を切り離す断絶の死生観が目立つ。
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