本研究の目的は、シーブ(Sieve)電極をラットの感覚神経束に埋め込み、人工感覚における刺激電極インターフェイスとして利用するための技術を確立することにある。研究開始時点ですでに所有していたシーブ電極とそれを改良した電極を鼓索神経と後耳介神経に埋め込み電気刺激を行った。改良電極ついては、計画どおり神経束の固定強度を上げる目的でシープ孔の数を増やし、さらにインピーダンスを下げ同時に金属層がポリイミド基板から剥離しにくい構造にするために電極金属を金からイリジウムに変更したものを製作した。埋め込み前の電極の電気的特性を試験したところ、期待どおりにインピーダンス値を減少させることができた。麻酔下および覚醒下で自由行動するラットの後耳介神経に対してシーブ電極による電気刺激を行い、自由行動下では耳介のエアーパフ刺激時に観察されるものと同様の耳介反射を生じさせることができた。シーブ電極を味覚神経(鼓索神経)に埋め込んだラットについても、電気刺激によって生ずるリッキング反射行動を観察することができた。 長期の電極埋め込み実験では、最長7ヶ月までは刺激効果が持続することを確認した。しかしその後は頭部ソケットの脱落や電極ワイヤの切断によって実験の継続を断念した。頭部にソケットを取り付ける従来の方法では半年以上ソケットの脱落や電極の切断等の事故を防ぐことが困難であり、電極性能の長期評価の妨げになっている。この問題を解決するには完全埋め込み型の経皮的記録/刺激インターフェイスを実現させる必要があり、現在そのための研究を進めている。さらに、シーブ電極の最適化とより効果的な電気刺激条件を求めるために、孔の直径、電極リングの金属露出面積、配線間隔等を見直してデザインを一新した数種類の電極の製作を行った。これらの新デザイン電極を用いた実験は現在計画中である。
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