研究課題
本研究の目的は、アトピー素因を持つ宿主が食品有害微生物に感染した場合の病態について解析し、今や国民の3割に達すると言われるアレルギー患者における食品由来感染症の危険性を評価することである。ヒトアトピー性皮膚炎の疾患モデル動物であるアトピーマウスを用いて食品媒介感染症の一種であるリステリア感染実験を行った結果、アトピーマウスでは対照マウスに比べ少ない発症菌数で高い致死率を示した。同様の結果がサルモネラ感染実験によっても得られた。この結果はアトピー素因がリステリア症のリスク要因となりうることを示している。しかし、アトピーマウスにおける易感染性のメカニズムは不明である。そこでアトピーマウスにおけるリステリア症の病態解析を行い、本年度は以下の研究成果を得た。1)リステリア菌は正常マウスの感染脳ではほとんど見出されなかったが、アトピーマウスでは有意に多数の菌が検出され、感染初期に脳血液関門の機能低下が認められた。2)アトピーマウスおよび対照マウスともリステリア菌感染によるIFN-γの上昇が同程度に認められたが、アトピーマウスでは免疫抑制性サイトカインの産生が対照マウスに比べ著しく高かった。3)上記の免疫抑制性サイトカインの過剰な産生にマクロファージが関与すると思われた。4)アトピーマウスと対照マウスにおけるリステリア感染時の発現遺伝子についてマイクロアレイ解析を行ったところ、両者間で発現に違いが認められる遺伝子を複数見出した。これらの遺伝子がどのように感染防御やアトピーの病態に関与するのかは今後の詳細な検討が必要である。アトピーマウスでは細菌感染により通常と異なる遺伝子の発現が誘導されることにより感染防御能が低下し、易感染性を引き起こす可能性がある。本研究により、アトピー素因はリステリア症などの感染症を重篤化させるリスク要因であることが示唆された。
すべて 2006
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