昨今、大豆イソフラボンの効果がマスコミ等で大々的に喧伝され、栄養食品から菓子類に至るまで様々な種類のイソフラボン含有食料品が販売されている。古来より我々日本人はイソフラボンを多く含む食品を摂取しており、そのため日本人は欧米人に比べ更年期障害、虚血性心疾患、乳ガン、前立腺ガンなどの罹患率が低いとする疫学調査の結果から、この大豆食品ブームが起こったといえる。しかし、一方で、大豆イソフラボンは弱いながらも女性ホルモンであるエストロゲンと同様の作用を持ち、植物由来のエストロゲン様物質として内分泌撹乱物質の一種に分類されている。そしてこれまでに、マメ科植物によるヒツジの繁殖障害やラットの排卵抑制、膣上皮の増殖など、内因性のエストロゲンの生合成、代謝に影響を及ぼすことが知られている。これら植物性エストロゲン様物質は、代謝されやすいこと、進化の過程で適応してきたことなどから内分泌撹乱物質としての作用は弱いと推察されるが、ヒトを含む霊長類での知見はなく、外因性の内分泌撹乱物質と共存した場合の影響も全く調べられていない。本研究は、エストロゲン作用により生殖のメカニズムが大きく変化する新生児期、性成熟期および閉経周辺期に着目し、生理学的にヒトに最も近い実験動物であるサルを用いて、これらの大豆イソフラボンが、生殖内分泌系にどのように関与しているのかを、内分泌学的、行動学的に調べ、これらの食品の安全性を確認することを目的とする。本年度は、当研究所屋内個別ケージ飼育のサルをTimed Mating法により交配し、得られた妊娠ザルを2つのグループに分け、一方は妊娠ザルに大豆イソフラボン投与を行い、他方は対照群として出産した新生児を安楽殺し、脳、生殖腺を採取し、下記実験をおこなっている。 (1)肉眼的観察および固定標本を作製し、HE染色による組織像の観察。 (2)組織中エストロゲン含量の測定。 (3)エストロゲン受容体(ER)α、β、アンドロゲン受容体(AR)陽性細胞の局在検討。 (4)ステロイド転換酵素のアロマターゼおよび5αリダクターゼの発現領域を検討。 これまでのところ、対照群、投与群共に免疫組織化学法によるエストロゲン受容体(ER)α、β、アンドロゲン受容体(AR)陽性ニューロンが新生児視床下部などに観察されている。本年度は妊娠ザルの例数を追加して実験を行っている。これらがすべて出産し、新生児が得られた後に比較検討しまとめをおこなう。
|