抗体は抗原結合部位ばかりでなく、その非抗原結合部位(Fc)によるFcγ受容体やFcRnへの結合により多彩な生物活性を有している。近年抗体工学において抗ウイルスヒト型モノクローナル抗体や抗腫瘍性ヒト型モノクローナル抗体の非抗原結合部位(Fc)を遺伝子組み換え技術を用い、血中の半減期やFcRnへの結合力の向上に成功している。また非抗原結合部位(Fc)をレプチン、エリスロポイエチンと融合したFc-Leptin、Epo-Fcなどが作られ、半減期が向上したことが報告されている。しかしIgGが結合するFcRn上の詳細な結合領域は明らかではない。そこで本研究では人工合成抗体の分子設計を目的にモノクローナルヒトIgG1の蛍光プローブをリガンドにして、FcRnの全アミノ酸配列を網羅するペプチドアレイを用いてFcRnの機能性領域を詳細に検討した。ヒトFcRnα鎖の細胞外ドメインを標的に14merペプチドを13アミノ酸重複させ14merペプチド261種類を、Fmocアミノ酸を用いてセルロース膜上に網羅的ペプチドアレイを作製した。その結果FITC-IgGに対してABCDの4つの領域に結合サイトが認められた。これらをヒトFcRnやラットFcRn/IgG・Fc複合体を3次元立体構造解析するとそれぞれのサイトはタンパク質表面に局在し、特にAサイトがIgG FcのCH2/CH3接合部に接していることが推測された。ヒト型抗体がガン治療や抗ウイルス、クローン病、アルツハイマー病治療剤として開発され、IgG1抗体Fc部位の変異体はFcRnへの結合が10倍に増強されるとともに血中半減期が4倍近く延長したことが報告されている。今回明らかにしたIgG結合性ABCDサイトは抗体の改変用ツールとして抗体工学への応用が示唆された。
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