食品を汚染する複数のカビ毒による健康被害に関しては、ラットを用いたトリコテセン投与実験および発ガンパラメーターの検討をおこなった。トリコテセン投与実験の結果、長期投与によって、体重減少を引き起こさない用量においても顕著なT細胞の減少がおこることが見いだされた。発ガンパラメーターとしては、カビ毒が引き起こす発ガン性や細胞毒性の要因の一つが細胞に対する酸化的障害である可能性が示唆されていることから、アフラトキシンB1(AFB1)、AFB2、AFG1、AFG2、又、トリコテセン系カビ毒に分類されるデオキシニバレノール(DON)に着目して、活性酸素種(ROS)の産生を観察した。すなわち、複数のカビ毒汚染で産生されるROSがAFB1の発がん性を増長する可能性をin vitroで検出する方法を検討した。AFB1は、肝臓のチトクロームP450 1A2(CYP1A2)によって代謝を受ける過程で、ROSを産生することが報告されている。そこで、本研究では、β-ナフタフラボン(β-NF)でCYP1A2の発現を誘導したヒト肝臓ガン細胞株HepG2細胞を用い、DCFH-DAからの蛍光量を指標にROS量を測定した。アフラトキシン類によるROS産生を観察する為に、β-NFで処理したHepG2細胞にAFB1、AFB2、AFG1、AFG2をそれぞれ暴露させた。その結果、アフラトキシン類4種類とも、ほぼ同量の活性酸素種の産生誘導が観察された。一方、DONではROSの有為な産生上昇は観察されなかった。過去の研究からアフラトキシン類における変異原性は大きく異なることが知られているが、本研究において活性酸素種産生誘導能に関しては同様であることが示された。本研究から得られた知見により、カビ毒混合汚染によって誘導される酸化的障害が、AFB1の発ガン性を増幅させる可能性が示唆された。
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