研究概要 |
カビ毒とは、真菌の産生する代謝産物のうち家畜またはヒトに健康被害を引き起こすもので、食の安全性の観点からその汚染は重要な問題となっている。これらカビ毒は長期間摂取した場合は慢性毒性、すなわち免疫能の低下や発ガンを引き起こす。特に発ガン性が問題となるアフラトキシン(AF).においては、他のカビ毒がその発がん性にどのように影響するかに関しては、その実験系も確立されておらず、また研究も乏しい。われわれは、天然物化合物の中で最も発がん性の強いAFB1の発ガン性に着目し、その発がん性発現の初段階とされるDNAとのAFB1付加体形成を指標に、ラット肝初代培養細胞を用いたin vitro実験系とF344オスラットを用いたin vivo実験系を確立し、その発ガン性に及ぼす他のカビ毒、すなわちAFB1以外のAF類似体(AFB2,AFG1、AFG2)およびトリコテセン系カビ毒(デオキシニバレノール、T-2トキシン)の影響を検討した。その結果、AFB1のDNA付加体生成を促進するカビ毒は、強い免疫毒性を有するT-2トキシンである可能性がin vitro実験から示唆された。in vitro実験で得られた結果を基にin vivo実験系を行った結果、T-2トキシンは、ラットに投与して短時間で、その免疫系、特にT細胞群に影響を及ぼし、AFB1のDNA結合に関与する酵素活性を亢進することが明らかになった。さらにT-2トキシン投与群のラット肝細胞のミクロゾーム画分を用いて、放射能標識AFB1のDNA結合能を測定した結果、その結合能も亢進していることが明らかになった。これらのことから、T-2トキシンとAFB1との共汚染は、AFB1の発がん性を促進する可能性が示唆された。 また、分担研究者 高鳥は、農作物に付着したかびがカビ毒を産生するプロセスを制御することを目的に、生物農薬の候補細菌を探索した。対象としたかびとして我が国でのコメ汚染が報告されているPenicillium.islandicumを用い、その産生毒素であるルテオスカイリンを指標に毒素産生真菌への毒素抑制効果をもつ土壌微生物を探索した。その結果、土壌中の放線菌の1種に、Penicillium.islandicumの生育を抑えずにルテオスカイリンの産生のみを抑制する作用があることが明らかになった。16sDNA塩基配列により同定した結果、この放線菌はNocardia属の1種であることが示唆された。
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