本研究は、睡眠-覚醒リズムの生成を司る神経機構の解明を目指し、(a)単一神経細胞活動の細胞外計測と(睡眠-覚醒ステージを判定するための)脳波計測を同時に行い、リズムの生成に関わる細胞を探す(b)多細胞神経活動の計測により、リズムの生成に関わる神経細胞間の相互作用を調べる(c)(a)や(b)で得られた結果と生理学的な知見を参考にして睡眠-覚醒リズムの生成機構をモデル化し、モデルの妥当性を計算機シミュレーションにより検証するということを計画していた。 このうち計画初年度である本年は、(a)に関しては、レム睡眠の発現に関与する橋のアセチルコリン作動性ニューロン、覚醒の維持に関わるとされるセロトニン作動性ニューロン、さらにそれらの活動を調節する周囲のニューロンに注目し、それらの活動と脳波を同時計測し、その間の時間関係を調べた。また、(b)に関しては、多細胞活動を計測るSN比が良い電極の作成を目指し、様々な材質、太さの電極を脳幹に刺入しているという状況である。一方、(c)に関しては、最新の知見を参考に睡眠-覚醒リズムの生成機構のモデルを作成し、計算機を用いてシミュレーションを行なった。モデルは、ネコやラットで見られるような数分〜数十分間隔で睡眠と覚醒を繰り返す多相性睡眠、一日一回の睡眠中に90分サイクルでノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返すヒトの睡眠、オレキシン神経が脱落したマウスやヒトで見られる休息期の強い眠気(ナルコレプシー)を再現することができた。このモデルは高く評価されており、Journal of Neurophysiology誌に掲載されることとなった。
|