我々はヒトにおいて、断眠が生体内における酸化作用の増加もしくは抗酸化作用の低下をもたらし、生体を酸化ストレスの強い状況に陥れるという仮説を立て検討をこれまで行ってきた。本年度は、昨年度までの研究結果を基礎とし、断眠による酸化ストレス・抗酸化力の影響を健常人を被検者として検討を行った。 方法は、断眠前後の各1日2回(朝・夕)において、血液を採取し、酸化度の指標としてd-ROMs Test、抗酸化力の指標として電子を与える還元能力を測定するBAPテストを行った。また、断眠前後に加え回復睡眠後にはイオン選択性分析装置を用いて唾液の酸化還元力の測定を行った。 d-ROMsテストでは、断眠前日の朝・夕と断眠後の朝では大きな変動がみられなかったが、断眠後の夕の測定時には増加傾向が認められた。一方、BAPテストでは、断眠前の朝・夕から断眠後の朝にかけて経時的に測定値の上昇がみられ、断眠後の朝に最高値を示した後、断眠後の夕にかけて低下傾向を示した。また、唾液の酸化・還元力の検討では、断眠前の朝・夕及び断眠後の朝に比して、断眠後の夕の測定値はより高値を示し、回復睡眠後の朝及び夕においても測定値は低下を認めず、酸化力が強い状態が持続していた。 上記の結果からは、断眠負荷を健常人に与えることにより、断眠後に酸化ストレスが上昇し、抗酸化力も上昇傾向が認められた。また、酸化力が上昇した状態は、回復睡眠後も必ずしも速やかに元に戻らない要素も存在している。このように、断眠という生体に対する負荷は、測定付によって経時的な変動の仕方はことなるものの、酸化ストレスを上昇させ、抗酸化力という防御反応を上昇させる傾向があることが判明した。今後、健常人のみならず、生体の防御機構が脆弱となっていることが想定されるうつ病患者などの睡眠障害や睡眠不足状態における酸化ストレス反応を評価する必要性があると考えられる。
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