本研究課題は、睡眠中の記憶の固定および消去を司る神経基盤の解明を目的とする。研究に用いた記憶課題は漢字二文字からなる単語の記銘課題と再認課題からなり、再認課題は記銘課題直後と24時間後に実施した。被験者は記銘課題と24時間後再認課題の間に7時間の睡眠をとった。記銘課題では、100個の単語を被験者は記憶した。再認課題では、記銘課題中に提示された単語のほかに新たな単語50個が提示され、被験者は単語が記銘課題中に提示されたものかどうかをボタンで回答した。記銘課題および再認課題時の脳活動を機能的MRIにより計測した。 記銘課題遂行中の脳活動について、再認できた単語の記銘に関わる脳活動を、直後再認によるものと24時間後再認によるものとで解析し比較した。その結果、直後再認でも24時間後再認でも再認できた単語に有意な活動が認められた領域として、右海馬、背側の下前頭回が同定された。また、直後再認で再認できた単語に有意な活動が認められず、24時間後再認で再認できた単語に有意な活動が認められた領域として左上前頭回、左中前頭回、腹側の下前頭回、左中側頭回、左右中後頭回、左舌上回、右海馬傍回が同定された。これらの結果から、「弱い記憶」の記銘には海馬および背側の下前頭回を含む領域の活動が本質的であるのに対し、それを「強い記憶」として固定するためには、それらの領域ほかに左上前頭回、左中前頭回、腹側下前頭回ほかの領域の活動が重要であると考えられた。 24時間後再認時に正しく再認できたときの脳活動部位として両側海馬が同定された。この領域の活動の強さの解析から、活動の強さと睡眠の構造とに関係があることが示唆された。この結果から、睡眠により記憶の固定が起こり、その状態を再認時の脳活動として検出できることを示唆すると共に、Squireによる記憶の固定に関わる海馬-皮質系記憶システムの説を支持するものと考えられた。
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