欧米やオーストラリアで行われてきた疫学的な研究から母親の母乳中に多量に含まれるサイトカインの1つであるTransforming growth factor-β(TGF-β)が乳幼児のアレルギー疾患の発症を抑制する可能性が示唆されている。しかしながら経口的に摂取されたTGF-βの免疫系に及ぼす影響についてはこれまで実験的にほとんど検証されていなかった。我々はこの問題に着目し、経口的に投与したTGF-βの全身免疫系に及ぼす作用についてアレルギー性疾患の動物モデルを用いて検討した。 高用量の卵白アルブミン(OVA)をOVA特異的T細胞受容体トランスジェニックマウス(DO11.10)に反復的に経口投与するとOVA特異的血中IgE産生が観察され、このマウスにOVAを静注するとアナフィラキシーショックが誘導される。この食物アレルギーモデルマウスに経口的にTGF-βとOVAとを同時に投与するとOVA特異的血中IgE産生、アナフィラキシーショックの誘発が抑制された。 以上の実験結果は、経口的に摂取されたTGF-βは、全身免疫応答に対し影響を与え、とりわけアレルギー反応に関与するTh2タイプの免疫応答を負に制御する可能性を示唆した。母乳中に含まれるTGF-βの作用を本結果は一部説明できるかもしれない。本知見は、経口的にTGF-βを摂取することが、アレルギー性疾患の予防や治療につながる可能性を示唆するものである。
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