研究概要 |
花粉症や喘息などのアレルギー性疾患を根本的に予防する方法は未だ得られていない。欧米における疫学的な研究から、母乳中に含有するサイトカインの1つであるTGF-βがアトピー性皮膚炎や喘息などの乳幼児のアレルギー性疾患の発症を抑制する可能性が指摘されてきた。しかしながら、経口的に摂取されたタンパク質の多くは、胃酸や消化酵素などによる分解を受けることが知られており、実際に、母乳中あるいは経口的に摂取されたTGF-βが腸管内でその活性を保ちうるのか否か、また活性を保てたとしても本当に免疫系に影響を及ぼすことができるか否か、については、ほとんど明らかになっておらず、それら疫学研究の真偽にっいては不明な点が多かった。 そこで平成18年度の本研究において我々は、TGF-βシグナルの伝達分子であるSmad3分子のDNA結合配列を12個タンデムに配列し、ルシフェラーゼ遺伝子とつなげたレポーターコンストラクト(EMBO J17:3091,1998)をトランスジーンとして導入したトランスジェニックマウス(細胞がTGF-β/Smad3シグナルを感知するとルシフェラーゼ活性が上昇)を用いて、このマウスに経口的にTGF-βを投与し、ルシフェラーゼ活性をモニターすることにより、生体内のどの場所(腸管,全身など)で経口TGF-β作用が主として発現されるかを検討した。さらに、経口的に投与したTGF-βが胃、小腸、大腸において活性を及ぼしているかについて、リン酸化Smad2抗体による免疫染色法を用いて検討した。 その結果、経口的に摂取されたTGF-βは腸管内においてその活性を保っていることが証明された(J Allergy Clin Immunol submitted)。 この知見は、乳幼児や成人の摂る飲食物にTGF-βを含有させないというような簡便な方法によってアレルギー性疾患を根本的に予防し、わが国の保健医療に貢献できる可能性を強く示唆する。
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