研究概要 |
本年度は,代表者の所属する東京農工大学の卒業生あるいは修士課程修了生のうち10名程度に対して,技術者としてのキャリアならびにキャリアの各段階で直面した様々な問題についてインタビュー調査を実施した.さらに,東京農工大学卒業後5年および10年が経過した卒業生・修了生を対象とした総合的なアンケート調査について,自由記述を主たる対象とした分析を行った. 分析の結果,技術系大学を卒業した者であっても,卒業後の進路は技術系には限られないことは当然として,技術系の進路を選択した場合であっても,卒業・修了時の専門とは必ずしも一致しない分野で活動している場合が多いことが明らかになった. さらに,これらの調査対象者が現在技術倫理教育で問題事例として取り上げられているような状況に「技術者として」直面した例は皆無であった.企業活動においては,営業などを通して技術倫理というよりはビジネス・エシックスが問題となる局面が多く,組織的にもそれに対する対応が進んでいる.いわゆるコンプライアンスが関わる技術的課題についても,企業内でガイドラインが整備されており,また,課題設定の段階で倫理問題はクリアするように注意が払われている.したがって,技術者個人が技術倫理問題に面することは稀有であるのだ. むしろ技術倫理が問題となるのは,総合的なエンジニアリングの課題を解決したり見出したりする際であり,(技術,経済,環境などの)様々な価値のトレードオフに対して判断を下す場合に考慮すべき要因としてたち現れていた.2006年度以降は,ここに焦点をあてて研究を遂行する.
|