研究概要 |
これまでに実施したインタビューおよびアンケート調査の結果,技術者のキャリアおよび技術者を取り巻く環境として以下の2点が明らかになった.すなわち,(1)近年(平均的な意味で)大卒および修士修了の技術者は初職においては必ずしも自らの専門と同一でない領域でキャリアをスタートすることが多く,その後一端「専門」に近い領域に戻るものが増えるものの「専門」領域で勤務する割合は全キャリアを通じて過半数を大きく超えることはない.一方で,人事管理を行う企業側も,技術者(予備軍)に対しては大学で学んだ専門知識よりも基礎的な能力やスキルを期待しており,実際その能力等を活用している.(2)技術倫理的な問題に対する企業の意識は非常に高く,コンプライアンスを中心とした技術者倫理教育については社内教育の形で充実したものが行われており,しかも日常の企業活動の中で多くの企業はミドルないしトップダウン形式で技術倫理的な問題を厳しく管理している.したがって,大学を出て企業に勤務するようになった技術者は管理職につくまでの相当の期間は,技術倫理的問題に対して直接の判断を求められることは極めて稀である. このような技術者のキャリアと企業のあり方を考慮すると,技術者が倫理的な問題に直面して判断を求められるような事例の重要性が否定されるわけではないとはいえ,メタな技術倫理事例が今後の技術者倫理教育を実施する上で重要であると考えられる.すなわち,(1)技術者倫理に関する組織的な取組みの設計・運用にかかわる事例,(2)一般的な技術者ではなく技術者を管理する側に立った倫理的な事例,(3)企業活動の成果に対する俯瞰的な視点を与える事例,などを通じた教育が重要である.
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