本年度はまず前年度の大学卒業者・修了者を対象としたインタビュー調査に引き続き、採用側の企業関係者に対してインタビューを実施し、分析した。インタビューの結果、近年の企業環境の変化を受けてどの企業もコンプライアンスや企業倫理の問題等については強く意識し、また社員教育や管理体制を通じて積極的に対応しているものの、高等教育における技術者倫理教育に関して単独での意義を積極的に支持する企業はあまりないことが明らかになった。加えて、理工系大学出身者のキャリアは企業間でも、また同一企業内においても典型と呼べるキャリアはほとんど存在しないことが確認された。そこで、前年度および今年度のインタビュー調査の分析結果を受けて、技術者倫理を理工系教育で養成される他の能力やスキルと独立した形で取り扱うのではなく、技術者および理工系大学出身者に求められる実践的能力・スキルの構成要素として理解することを提唱し、その概念に基づいて技術倫理教育に活用可能な事例を体系化するために、既存事例の再分析を実施した。その結果、技術倫理の事例は、(1)ビジネスエシックス、(2)制度設計などのメタ設計、(3)価値の対立、(4)コミュニケーション不足・不全、(5)フレーミング、(6)リスク処理、(7)科学技術の生来的特性などの観点およびその複合的な観点によって整理することで、多様なキャリアに対してある程度対応可能な事例の体系化が進められることが示唆された。
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