2年目である今年度は、これまでの共同研究で得られている成果を踏まえて、技術者の倫理観の形成過程を直接的に把握することを目的として、フィールドワークによるデータの収集を行った。計画策定の段階では、技術者の倫理観形成を検討する上で重要なキーパーソンを選定し、半構造化インタビューを行う予定であったが、キーパーソンと接触する中で、ある建設会社(Z社)のトンネルの建設現場でフィールドワークができるという絶好の機会が得られたため、参与観察と聞き取りが同時に可能となるフィールドワークを実施することにし、データ収集計画を微修正した。 フィールドワークは、フィールドワークの技法の基礎を習得した研究協力者が、2006年10月23日から11月10日までの3週間、Z社のトンネルの建設現場に実習生として住み込み、トンネル建設に関わる多様な人々と交流しながら参与観察と聞き取りを行うことを通して、多くの質的なデータを収集した。フィールドワーク当時、現場はトンネル掘削後のコンクリートの打設のプロセスにあり、技術者集団の倫理的な判断に関わる意思決定のプロセスを直接に把握することが可能となった。なお、フィールドワークの全過程において、研究代表者と研究分担者は、研究協力者からの調査報告に基づいて適宜、指導と助言を行った。 フィールドワークの結果、技術者の倫理観形成の過程を知る上で極めて重要なデータを収集することができた。具体的には、「バイブレータのかけ方」、「作業中のタバコの喫煙について」、「あふれた生コンを戻してよいか」、「防水シートとキャンバーの打ち方」、「水漏れ箇所を修復するまでのプロセス」、「ヘルメットのつば」と名づけた6つエピソードを含む多数のエピソードを収集することができた。これらのエピソードは、いずれも観察直後にフィールドノーツとして記録された。 本年度の研究の最大の成果は、「技術者集団としての意思決定プロセス」に関する極めて貴重な質的データを収集できただけでなく、日本人技術者の倫理観形成は技術者集団の意思決定過程と分かち難く結びついているらしいという示唆が得られたことである。
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