研究概要 |
生物が「生きて活動する」温度範囲は,0〜100℃を大きく外れない.生物活動に不可欠な酵素などの反応が,液体状態の水を必要とするためである.塩分を含む海水は0℃以下でも液体で存在する.この低温環境には微細藻類から成る海氷藻類群集(IceAlgae)が増殖する.本申請で調査地としたサロマ湖では1〜3月に結氷し,氷中でIceAlgaeが増殖する.このような厳しい低温で光合成速度が維持されるためには,鍵酵素の一つリブロース二リン酸カルボキシラーゼオキシゲナーゼ(RuBisCO)が低温へ対応していなければならない.申請者は,マイクロマニュピレーションと高効率のDNA抽出法とポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を組み合わせて,数細胞からなる微細藻類から低温耐性RuBisCOのDNA塩基配列(rbcS/rbcL)を解析し,一次構造を決定した.海氷藻類18種類の塩基配列を比較した結果,低温耐性生RuBisCOに共通した一次構造は認められず,複数のアミノ酸変異による高次構造の変化が低温耐性に必要である可能性が示唆された.また,培養実験の結果から海氷藻類が過冷却状態の-5℃の海水中でも増殖を維持することを明らかにしており,低温耐性RuBisCOがこの温度でも働くことを示した.2007年2月下旬から3月上旬に結氷したサロマ湖において,海氷中より微細藻類群集を採集し,各個体からのDNAの抽出を行った.この試料を用いて塩基配列情報を更に集積する予定である. 近年の暖冬傾向により,サロマ湖海氷の状況も変化している.本研究で得られた結果は、温暖化による海洋環境の変化が,冬季海洋の一次生産に与える影響についても様々な示唆を与えるものとなった.
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