研究計画に従い、Thermococcus kodakaraensisを培養温度を変えて培養し、発現してくる遺伝子の網羅的な解析を試みた。T.kodakaraensisを60℃及び85℃で培養し、生育曲線をモニターしつつ、対数増殖期、定常期で急冷し、生育を止めたのち集菌した。対数増殖期の細胞からmRNAを抽出し、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。温度によって異なる蛍光標識を行い、マイクロアレイ(DNAチップ)を用いたハイブリダイゼーションにより、60℃で特異的に転写されている遺伝子をリストアップした。また二次元電気泳動法を利用し、低温特異的に発現してくるタンパク質の動態を調べた。タンパク質の同定はアミノ酸配列分析、質量分析により行った。網羅的解析により絞り込みのなされた低温特異的遺伝子群の中から、RNAヘリカーゼ、分子シヤペロニン、膜脂質合成系酵素群に注目して、いくつかの遺伝子産物を組換え体として取得した。RNAヘリカーゼに関してはATPase活性が認められたが、その反応至適温度は50℃であり、T.kodakaraensisの酵素の中で最も低い温度特性が見られた。また分光学的手法によりタンパク質の安定性を検討したところ、80℃で変性が認められた。分子シャペロニンCpkAの誘導メカニズムについて検討するためmRNA転写量、タンパク質の発現を調べたところ、低温での高発現は転写後レベルでなされていることが確認された。特にリボソーム結合部位周辺に形成される二次構造が発現調節に関与していると予想される。なおcpkA遺伝子のノックアウト株が構築されないことから、CpkAは生育に必須の機能を有すると思われる。 Thermococcus kodakaraensisのゲノム配列に関してはアノテーションが精査され、詳しい情報に関しては論文を通じて一般公開された。
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