Thermococcus属はPyrococcus属の超好熱菌に比べて生育温度範囲が広く、特により低温での生育が可能である。Thermococcus kodakaraensisのゲノムアノテーションを行い、Pyrococcus属超好熱菌との比較解析を行うとともに、培養温度を変えて培養し、発現してくる遺伝子の網羅的な解析を試みた。T.kodakaraensisにはPyrococcus属にはない747個の遺伝子が存在した。これら限られた遺伝子のいくつかは、Thermococcusのより低い温度で生育に関与すると考えられる。マイクロアレイ解析とプロテオーム解析で低温誘導型遺伝子の特徴を調べたところ、低温誘導型の分子シャペロニンはそれが転写後レベルで制御されていることが明らかになった。70℃以下の培養で分子シャペロニンCpkAの発現は誘導されるが、今回この遺伝子の転写開始点を特定し、リーダー領域の構造特異性を検討した。cpkAのプロモーター構造を高温誘導型シャペロニンであるcpkBのプロモーターと比較したところ、数箇所の違い以外高度に保存されており、進化的に両遺伝子がパラロガスな関係にあることが示された。わずかな配列の違いにより誘導特性の生じているいると考えられるが、この点は今後明らかにして行きたい。なおcpkA遺伝子の破壊株を構築できなかったことから本遺伝子は低温に限らず生育に必須な遺伝子と考えられた。また低温ではRNAヘリカーゼが特異的に誘導されていることを見いだしたが、これは超好熱菌由来の酵素でありながら反応至適温度が50℃というユニークな特徴が見られた。本研究では膜脂質合成系に関与するイソプレノイド合成系酵素の機能解析のほか、Thermococcus属に特有のキチン資化系酵素についても検討を行った。
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