放射線抵抗性細菌デイノコッカス・ラジオデュランス由来のDNA修復促進タンパク質PprAとDNAの相互作用の分子機構を解明するために、DNA結合能が欠失した変異タンパク質を作製して生化学的に解析した。まず、ヒドロキシルアミン処理あるいはerror-pronePCRによって、pprA遺伝子にランダム変異を導入し、形質転換体のコロニーの大きさとDNA結合能の相関を指標として変異体をスクリーニングした。次に、得られた変異プラスミドのDNA塩基配列を決定し、1塩基置換変異を持つプラスミドのみを選択した。さらに、変異遺伝子を大腸菌で発現させ、タンパク質粗抽出物とDNAを用いたアガロースゲルシフトにより、ゲルシフト状態に変化がみられる変異体をスクリーニングし、計24個の変異体を取得した。これによって、DNA結合能に重要なアミノ酸残基が同定できた。変異部位は、pprA遺伝子の中央付近、DNA塩基配列で133番目から206番目の間に集中していた。野生型及び変異型の精製タンパク質を用いて、アガロースゲルシフト法にてDNAとの結合能を調べたところ、一定量の直鎖状2本鎖DNA段片の完全シフトに必要なタンパク質濃度を勘案すると、野生型PprAタンパク質は2量体以上の多量体としてDNAに結合していると考えられた。ゲルろ過法でタンパク質の分子量を見積もったところ、野生型PprAタンパク質は溶液中で12量体を形成していると推定された。一方、取得した変異体の分子量は野生型と比べて小さく、タンパク質の会合状態とDNA結合能の相関が示唆された。今後は、電子顕微鏡イメージング法や水晶発振子マイクロバランス法などを用いて、タンパク質・DNAの結合様式を解析することを予定している。また、PprAタンパク質が持つDNA修復促進活性の分子機構を解明するために、PprAタンパク質の立体構造を解析することが今後の課題である。今回取得した変異部位の情報は、立体構造と機能の相関の解析に重要な知見を与えることになる。
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