研究概要 |
本研究の目的は超深海の還元的極限環境に生息するナラクハナシガイについて,共生細菌の化学合成能を明らかにし,環境適応メカニズムを解明することにある.ナラクハナシガイは日本海溝の水深7千メートルを超える冷水湧出域に生息するハナシガイ科二枚貝であり,鰓上皮細胞内に化学合成細菌を宿す.この二枚貝は明瞭に系統の異なる2種類の共生細菌を宿し,これら2種類の細菌は鰓内で空間的住み分けを行う.先行研究により,1種は既知の共生硫黄細菌と近縁であること,もう1種は自由生活型の独立栄養細菌との類縁性があることが判明していた.平成18年度までに各種プライマーを用いて,共生細菌からの機能遺伝子の増幅を試みたが,明瞭な結果は得られなかった.また類似した環境に生息する他の化学合成共生無脊椎動物の宿す細菌の系統解析から,ナラクハナシガイの共生細菌のうちの一つはイガイ類の共生硫黄細菌に近縁であることが判明した.そこで今年度は新たな条件のもと,ナラクハナシガイ鰓から抽出したDNAを鋳型として,硫黄代謝に関わる重要な遺伝子であるSoxB遺伝子の増幅を試みた.その結果,少なくとも共生細菌のうちの1種はこの遺伝子を有することが判明した.従って,これまで16SリボゾームRNA遺伝子配列解析のみから推定していた細菌の機能を,機能遺伝子解析から硫黄細菌であると断定した.しかしながら,これまでの解析によって,もう一方の共生細菌の機能を示すデータを得ることはできなかった.今後は新鮮な試料を入手して,セルソーターなどで2種の共生細菌を分取し,それぞれの系群に特徴的な機能遺伝子の探索を実施したい.
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