現在、情報セキュリティを確保するために、暗号が広く用いられている。世の中で利用されているすべての暗号は、コンピュータ無しでは動かないといっても過言ではない。例えば、公開鍵暗号方式RSAにしても、共通鍵暗号方式AESにしても、コンピュータを使わずにメッセージの暗号化を行うことは、実用上、考えられない。それに対して、本研究では、コンピュータに依存せず、もっと身近で安価で扱い易い道具を使った暗号プロトコル、すなわちコンピュータ非依存暗号の考案・開発を目的とする。本年度に行った研究によって得られた新たな知見等の成果は以下の通りである。 1.前年度において、身近な道具のひとつでスライドパズルの一種である「15パズル」に注目し、15パズルを用いることによって、多人数での安全な計算が実現できることを示した。本年度は、15パズルにより、どのような関数が安全に計算できるのか、あるいは安全に計算できないのかについて解析を行った。具体的には、以下の通りの特徴付けを得ることに成功した。 (1)4変数以下の全ての論理関数は15パズルにより安全に計算できる。 (2)15パズルにより安全に計算できない5変数の論理関数が存在する。 (3)14変数以下の全ての対称関数は15パズルにより安全に計算できる。 (4)15パズルにより安全に計算できない15変数の対称関数が存在する。 2.量子力学に基づく暗号として、量子暗号が世界中で広く研究されているが、本研究では、より身近で安価な暗号方式の開発を目指し、より古典的なニュートン力学に着目し、ニュートン力学に基づく暗号プロトコルについて検討し、剛体による秘密鍵生成法についての知見を得た。
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