研究概要 |
本研究では,上述の背景に基づいて,人間の社会的行動の指針となる個人や社会の中の暗黙知を顕在化し,相互参照させるために,個と個,個と集団,集団と集団が相互に有益な情報交換を実現するためのソーシャルコミュニケーション環境を形成するためのコミュニケーションモデルを提案することを目的とする.本研究では,個々の人間の行動やある場における存在が暗黙知の表現形であると考え,ある社会的空間内における個人の行動や存在を顕在化させるためのシステムを心理実験で得られる知見に基づいて設計し,そのシステムを通して他者に認知される個人の暗黙知を集合的に提示することで,社会レベルの暗黙知を共有できる仕組みを検討することを目指した. 具体的には,実世界の人の動きは社会や個人に内在する情報と密接に結びついているという仮説のもと,RFIDタグによって空間的な人の動きセンシングし,得られたデータを通して情報社会における情報の流通過程と知識として情報が資産化される過程を説明するモデル構築のための社会実験を行なった.実験は,多人数の集団が屋内の制約のある空間から避難する状況を想定する.そのためある1室に被験者群となる集団を収容し,即時にこの部屋がある建物の外に避難する課題を与える.この際,被験者は避難経路となるパスに障害物を置くなどして,避難経路を複数の中から選択しながら移動することになる. その結果,個人の行動は他者との社会的関係によって,たとえ個々に独立した自律的な存在であっても集団的な行動をとりやすい傾向が明らかになった.
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