研究概要 |
本年度は、研究代表者が制作を担当した、日本認知科学会編『認知科学辞典』(共立出版,2002年)のデジタル版でXMLによって構造化された『デジタル認知科学辞典』(共立出版,2004年)の各項目に含まれる解説文に対して、言語構造や語彙情報に基づく言語的アノテーションを付与した。これは言語的アノテーションに関する研究代表者らの研究成果を用いることによって、半自動的に行った。言語的アノテーションを含む辞典コンテンツから、項目間の関係性、項目語とその定義を構成する語の間の階層的な関係などを導き、ネットワーク構造を生成した。このネットワーク構造を利用した辞典全体の可視化・検索システムを構築し、辞典の構造に偏りがないか調査した。その結果、分野によっては大きな偏りがあることが発見できた。また、項目間の意味的関係が人間の直感と合致しているかどうかを実験によって確認した。この実験内容は認知科学辞典の内容を専門分野とする被験者に思いつく単語から始めて、それに関連する専門用語を想起させ、実際に辞典のネットワーク構造からその用語が容易に導けるかどうかを調べたものである。 これは、人間の持つ辞典の項目とその文脈に関する知識と辞典から生成されたネットワーク構造を比較するものであり、人間の直感と重複する部分が十分に大きければ、そのネットワーク構造は妥当なものであり、言語的アノテーションによって項目ごとに個別に意味構造化を行うことによって、辞典全体の構造がさらに明確になり、編集の手がかりになる可能性があることを示したことになる。この点では、辞典に含まれる用語の網羅性に大きな偏りがあったため、意味構造化に関する十分な成果が得られなかったが、これらの実験によって辞典編集に関する多くの知見が得られた。
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